PFAS(ピーファス)って何? 私たちが考えるべきことは?
フライパンの表面加工などに使われてきた「PFAS(ピーファス)」とは何か、ご存じですか? PFASとは、約10,000種ともいわれる人工的につくられた有機フッ素化合物の総称です。近年、その安全性を不安視する声が増えていることから、世界的に関心が高まっています。 ワイ・ヨット社が2024年に実施した「キッチン用品に関する市場調査」でも、37%がPFAS問題を認知。70歳以上では約50%がPFASに関するニュースを「聞いたことがある」と回答しています。 PFASとはどんなもので、健康や環境にどんなリスクがあるのか、PFASの毒性などを研究している群馬大学副学長/大学院教授の鯉淵典之さんに話を聞きました。 PFASについて基本を押さえたうえで、日々の生活で私たちにできるPFAS対策を紹介します。 目次1.有機フッ素化合物「PFAS」ってどんなもの?2.PFASの人体・環境への影響は……?3.PFAS対策として、日々の暮らしでできること 1.有機フッ素化合物「PFAS」ってどんなもの? 「PFAS(ピーファス)」という言葉に聞き覚えがあったり、もしくは安全性について問題視されていることをご存じだったりする方も多いかもしれません。ワイ・ヨットが2024年に独自に行った「キッチン用品に関する市場調査」からは、PFAS問題に対する関心の高さがうかがえます。 炭素とフッ素の結合が強く、分解されにくいPFAS では、PFASとはどのような化学物質なのでしょうか。そもそも有機物には炭素や水素などの原子が含まれますが、そのうちの水素原子をフッ素原子と置き換え、炭素とフッ素の強い結合状態をつくったものがPFASです。その結合の強さから、熱や油分、水分など外部からの影響を受けにくいというのが最大の特徴です。 しかし一方で、結合が強いため分解されにくく、一度体内に取り込まれたり自然界に放出されたりすると、長期間にわたって残留しやすく、「フォーエバーケミカル=永遠の化学物質」とも呼ばれています。体内に取り込まれた場合、濃度が半分になるまでの時間(=半減期)は、PFOAで約2.3~8.5年、PFOSで約3.1~7.4年と見積もられています。 幅広い用途に利用されてきたPFAS PFASが世間一般に普及し始めたのは1950年頃。アメリカで開発されて以来、耐熱性、耐油性、耐水性に優れているという特徴により、暮らしに身近な物品から産業用途まで、世界中で数えきれないほどの製品や用途に応用されてきました。 撥水スプレー、焦げつきにくいフライパン、ご飯がくっつかない釜、自動車のコーティング、ハンバーガーの包装紙、コンタクトレンズや化粧品、あるいは石油火災の際に使用される泡消火剤、汚れに強いタッチスクリーンなどのほか、半導体の製造過程でも使われます。PFASは私たちの生活や社会活動をまたたく間に快適で便利なものに変え、現代の暮らしに不可欠な存在として定着しました。 2.PFASの人体・環境への影響は……? このように、長年にわたって私たちの便利で快適な暮らしを支えてきたPFASですが、2000年代初めから、その残留性の高さが注目されるようになりました。PFASは自然界で分解されることがないので、一度排出されると土壌を通じて地下水へと浸透し、自然界へ広がっていくことになるのです。 また、人間は、通常有害物質を体内に取り込むと、肝臓などで分解して排せつすることで、その物質の残留量を減らします。しかし、体内でほとんど分解されないために残留性の高いPFASは、そのまま体内に蓄積される可能性が高く、高濃度になります。そのため、健康への影響が懸念されているのです。 特に、PFASのうち「PFOA」と「PFOS」には、さまざまな健康への影響がありそうだということが、これまでの研究で報告されています。WHO(世界保健機関)は、PFOAには明確な発がんとの因果関係が認められ、またPFOSにも発がんとの因果関係がある可能性が認められるとしています。現在日本では、PFOAとPFOSの製造・輸入が原則として禁じられています。 このように、健康へのさまざまな影響については検証が始まりつつあるものの、わからないことも多いため、対策は定まっていないのが現状です。PFASが環境や人体にどの程度悪影響を与えるかは結論付けられておらず、そのメカニズムもまだ完全には明らかになっていません。 PFASの毒性などを研究している群馬大学副学長/大学院教授の鯉淵典之さんは、次のように話します。「PFOAやPFOSについては、発がん作用だけではなく、多くの臓器の機能に影響を及ぼす可能性が報告されています。しかし、その作用機構についてはまだ明らかではありません。 今や10,000種にも及ぶとされるPFASの身体への影響については、研究が追いついていないのが現状ですので、これからも継続して研究を続けることが不可欠です。私たちが化学物質と切っても切れない生活をしている以上、常に問題意識をもち、最新の情報に目を光らせることも大切だと思います。」 日本におけるPFAS対策と、世界の規制状況 長年にわたり自然界に放出されてきたPFASは、土壌に浸透し、地下水を通じて私たちの飲料水にも影響を及ぼしているといわれています。現在世界各国では、水道水や河川、地下水などにおいてPFAS濃度の厳しい基準値が設定され、対策が講じられつつあります。 日本では、2016年に沖縄県の北谷浄水場の水道水から高濃度のPFASが検出されたほか、東京の多摩地域での継続的な調査からも井戸水のPFAS汚染が判明しました。 2020年に環境省は「水質管理目標設定項目」として、水1リットル中の指針値を「PFOAとPFOSの合計で50ナノグラム」と暫定的に定めました。環境省や都道府県等が調査を実施したところ、河川・地下水等の水環境でこの値を超える地点が複数箇所ありました。それらの地域では、地下水の利用を停止するなどの対策が進められています。 海外では、WHOやイギリスでPFOAとPFOSがそれぞれ100ナノグラム、アメリカでそれぞれ4ナノグラム、ドイツでは2028年以降PFOSを含む4種類のPFAS合計で20ナノグラムと、各国で差はありますが、規制値を定めつつあります。 各国の規制値について、鯉淵さんは次のように指摘します。「規制値の考え方は、欧米と日本で少し異なります。日本の場合、一度規制値を設定すると、規制値を超えたら原則『その水道水は使用しない』ということになりますが、たとえばアメリカの場合は、規制値を超えても『規制値を超えたので飲まないようにしましょう(洗濯や入浴は構いません)』という通達が出るだけのようです。 アメリカの1リットルあたり4ナノグラムという数値は、実は測定感度ギリギリの数値で、『これ以上になったら使用禁止』という数値ではなく、『この数値(=限りなくゼロ)を目指しましょう』という意味の規制値だと考えられます。各国の考え方の違いにも注意が必要です」。...
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